「アクティオ・ワイルドカード」初のベスト4入り。伊藤/野口組が得たもの

「アクティオ・ワイルドカード」初のベスト4入り。伊藤/野口組が得たもの

大学チャンピオンが「マイナビジャパンツアー」に挑む「アクティオ・ワイルドカード」が、「第6戦都城大会 第24回ビーチバレー霧島酒造オープン」で実施された。
 宮崎県都城市・霧島ファクトリーガーデンにおいて、9月1日(金)から大学チャンピオンの挑戦となる戦いの幕が上がった。

「今年のツアー参戦は3回目だけど、今回はいつもより高いシードで出場できる。実力で掴んだ『アクティオ・ワイルドカード』を活かして、プロチームに食らいつきたい」

 

大会前、そう語っていたのは、アクティオ・ワイルドカード女子で出場する伊藤桜/野口彩陽(ともに産業能率大)組だ。大学生ながらすでにマイナビジャパンツアーには出場経験はある2人だが、今回はいつもと違うツアーの舞台であることを十分理解していた。

▲舞台は霧島ファクトリーガーデン特設コート

 

 伊藤/野口組の初戦は、幅口絵里香(オーイング)/中川知香(ハウスコム)組。昨年、フルセットゲームで敗れた相手だった。今回の勝負も同じようにもつれ、第1セットからデュースの展開に。それでも伊藤/野口組は動じず、第1セットを22-20と先取すると、第2セットも21-16と決着をつけた。

 

「相手にきわどいところに打たれて得点されてしまうと、以前はダメージを抱えていた。今年は『次はこうしよう』と2人で話し合い切り替えができるようになった。お互いあせらなくなったのは、成長している部分だと思う」(伊藤)

 

 続く山田紗也香/西堀健実(ともにトヨタ自動車)組戦でも、2-1(21-16,15-21,15-11)と勝利した。とくに最終セットは、「自信がある」(伊藤)という磨き抜いてきたサーブで相手を崩し、ディフェンスからブレイクポイントを量産。2連勝をあげ、プール戦1位で決勝トーナメント進出を決めた。

 決勝トーナメント準々決勝では、坪内紫苑(ANAエアポートサービス)/薮見真歩(キヌ・コーポレーション)組と対戦。自分たちの武器である野口の力強い攻撃力、伊藤の粘り強いレシーブを発揮し、2-0(21-12,21-17)と振り切った。アクティオワイルドカードが導入されてから、大学生としては史上初のベスト4入りを決めた。

▲ボールに食らいつく野口

 一回りも二回りも、頼もしくなった伊藤/野口組をさらに後押ししたのは、アクティオ・ワイルドカードならではの試合環境だった。

「最近サブコートで試合するのが多かったけれど、今大会はメインコートでの試合ばかり。お客さんも多いですし、MCが盛り上げてくれるので、モチベーションが上がる。ずっとメインコートで試合ができるように勝ち続けたい」と意気込む野口の姿があった。

伊藤も「応援していただいている声も聞こえますし、同じワイルドカード男子チームと一緒にがんばっているという一体感もある。普段はコーチをつけられないけれど、今回はコーチに帯同してもらい、試合に入る前の段階でいい準備ができたのも勝因の一つだと思う」とここまでの戦況を振り返った。

▲元気のよさが売りの伊藤

 

 いよいよ迎えた最終日。「自分たちは『学生』だと思わずに、プロの人たちと同じくらいの気持ちでがんばりたい。そして優勝したい」と語っていた伊藤。しかし、「優勝」という文字がちらつき始めた伊藤/野口組にとって、本当のプレッシャーはここからのしかかってきた。

 

 準決勝の相手は、柴麻美(帝国データバンク)/丸山紗季(マーチオークシー)組。8月下旬に開催された「第34回ビーチバレージャパンレディース」準々決勝で勝利した相手だったが、試合序盤から連続失点が続く。劣勢に追い込まれた2人の間では会話もどんどん減っていき、柴/丸山組に0-2(12-21,11-21)とあっという間に敗れ去った。

 

 続く3位決定戦。鈴木悠佳子(日本ビオトープ)/藤井桜子(立飛ホールディングス)との戦いは、第1セットを19-21で先取されたものの、第2セットは21-18と奪い返す。最終セットもマッチポイントを握ったり、握り返されたりの、均衡したゲームを展開。伊藤/野口組はサイドアウトをなんとか切り続けるが、相手の高さを意識してか最後のブレイクポイントを決められない。最後まで相手の攻撃に対応することができず、20-22と敗れ4位に終わった。

▲最終日は苦戦した伊藤/野口組

 

 試合終了後、伊藤と野口は泣き崩れた。あと一歩のところで、表彰台を逃し、インタビューでも涙が溢れて止まらなかった。

 

「いつもより狙われる比重も多くて、自分のパフォーマンスでいっぱいいっぱいになり、一歩引いた視点でゲームメイクができなかった。自分をコントロ-ルできなかったのが悔しい……」と伊藤は、言葉を振り絞りながら敗因を述べた。

 野口は、「なぜ、あんなプレーをしてしまったんだろう……」と頭を抱えた。「競っているときに自分の考え、判断で動いてしまった場面があった。あそこでサインどおりにやっていれば……。自分の弱いところがまるだしになってしまった」と声を震わせながら反省を口にした。

▲試合後、肩を落とす野口

 

応援してくれる人の数が多ければ多いほど、その分重圧ものしかかる。そんなプロと同じような環境下でも、伊藤/野口組は堂々のベスト4入りを果たした。

 

「自分のためにがんばるというより、自分は誰かのためにがんばることのほうが力を発揮できると思っています。今回、アクティオさんを始め、コーチを始めたくさんの方々にサポートしてもらったので、本当は表彰台に上りたかった……」

 

恩返しをしたかった、という伊藤と野口は、大学卒業後もビーチバレーボールを続ける意志を表明している。そんな2人は今回のアクティオ・ワイルドカードを通じて、大舞台で「勝つ」という真の意味を、身をもって感じ取った。

この戦いで得た涙は、将来トッププレーヤーを目指す2人にとって、かけがえのない宝物となるはずだ。

▲涙が止まらない伊藤