【FOR BEGINNER’S COLUMN⑥】ビーチとインドアが融合する競技。ワールドビーチゲームズで生まれた「4×4」の可能性。

【FOR BEGINNER’S COLUMN⑥】
ビーチとインドアが融合する競技。
ワールドビーチゲームズで生まれた「4×4」の可能性。

「僕らはみんな4x4をよく知っているからね。僕らはワールドツアーを回るプロフェッショナルだけど、地元のロスアンジェルスではファン(楽しみ)としてよくプレーしている。西海岸では様々なレベル、世代の人が4x4をしているよ」

歴史的な『第1回ANOCワールドビーチゲームズ』の「ビーチバレーボール4x4」初代チャンピオンに、チームリーダーとしてアメリカを導いたケーシー・パターソンは、このニューフォーマットのスポーツについて話してくれました。

『第1回ANOCワールドビーチゲームズ』は、10月12〜16日の日程でカタール・ドーハで行われました。ANOC(国内オリンピック委員会連合)主催で、オリンピック、ワールドゲームズと同じく総合スポーツ大会です。4x4のほかにはビーチサッカー、ビーチハンドボールなどのビーチスポーツから、ボルダリング、スケードボードなどアーバンスポーツまで、計13競技に97の国と地域から1240選手が集まりました。

現在はまだ小規模な大会ですが、ANOCはオリンピック、ワールドゲームズを補完する大きなトーナメントに育てたいと考えています。ビーチバレーボール4x4は、4人対4人で行うビーチバレーボールです。基本的なルールとボール、コート、ネットなどは通常の2人制と同じですが、1チーム6人でコート内には4人が入ります。そのためインドアと同じくゲーム中の選手交代が可能です。ただしコート内の4人に前衛と後衛の区別はなく、フリーポジションでプレーできます。


選手交代も可能である4x4
 
歴史的にはビーチバレーボールの創成期、まだルール、プレーヤーの人数も定まっていない1930年代に、4x4はアメリカ・カリフォルニアで始まったと伝わっています。その後、ビーチが2人制で競技化され主流となる中でも、比較的プレーしやすい4x4は世界各地のアマチュアによって行われてきました。しかしアメリカ、ブラジル、イタリアなどではハイレベルなプレーヤーが存在し、大規模なトーナメントも開かれています。

現に、女子の金メダルを獲得したアメリカの6人は全員が4x4の経験者。ロンドンオリンピック銅メダリストのブラジルのスター、ジュリアナ・シウバも4x4のトーナメントに出場したことがあると言っています。
「2人制より攻撃的になるので、もっとエキサイティングになる」(パターソン)という理由から根強い人気があります。そのため新たな総合スポーツ大会として始まったワールドビーチゲームズにおいて、柱となる競技として4x4は採用されました。

このトーナメントに合わせ、FIVB(国際バレーボール連盟)はルールを整備し、今シーズンのワールドツアー・シドニー大会でテストゲームを行い、ルールからエンターテイメント性にいたるまでよりよいカタチを模索してきました。

その甲斐もあり、4x4はカタール・ドーハの観客を最も沸かせた競技の1つになりました。カタールのエース、アジアチャンピオンのシェリフ・ユヌスとアフメド・ティジャン率いるホームチームが決勝まで進み、タミーム・カタール首長までもが観戦に訪れたこともありましたが、やはりこの競技が持つ魅力に多くの人が引きつけられた結果でしょう。


2人制代表の選手が出場したカタール

選手らが口々に言うように、4x4は2人制とは異なる戦術的なゲームになります。加えて個々の能力を生かせる幅が広がるので、チームによって戦い方が大きく変わってきます。パターソン、テイラー・クラブなどワールドクラスのスキルを持ち、高さのある選手を揃えるアメリカはネット際に3人を並べ、常にブロックは2枚、攻撃時は3人がアタックルートに走り込みます。ただし相手ディフェンスの人数が多いので、ショットは有効ではない上、ただ強打をやみくもに打っても決まらないとパターソンは話します。

逆にビーチ経験の少ない、若い選手で構成されたポーランドは、2人がネットに付きブロックが1枚となっても、レシーブを重視した戦術で準決勝まで進みました。このトーナメント一番の驚きだったのはインドネシア。世界的にはまったく無名の若者6人は、連携とアジリティの高さを生かし、常に速攻主体のコンビバレーで相手を翻弄しました。決勝トーナメントでは格上のオーストラリアを粉砕し、アメリカには敗れたもののポーランドに勝ち、銅メダルを獲得しました。

女子においては、インドアのスタイルに近づき、ディフェンス主体でラリーが長くなります。そのため、より頭を使うこと、役割分担が明確になることを選手は指摘しています。カナダやオーストラリアは、ビーチ経験が多い選手がオフェンスを担当し、インドア経験の多い選手がディフェンスを担当することで、うまくチームをミックスさせていました。


女子優勝のアメリカ

ただ2人制ビーチと同様、個々にオールラウンドの能力がないとチームは勝てないとパターソンは説明します。ビーチとインドア、単なるプレー経験ではなく戦術を組み立てる経験も必要です。しかしひるがえって考えるとビーチプレーヤー、インドアプレーヤーの双方が参入しやすく、融合されるエリアの競技でもあります。

プレースタイルとしても、まだまだ洗練される余地がたくさんあります。初めてのFIVB公式4x4トーナメントで、各チームはゲームの中で試行錯誤しながらプレーしていました。最も親しみ慣れているアメリカ男子でさえ、当初は連携度が低く、予選プールでは2試合も落としました。

ジュリアナ・シウバを始め、リオデジャネイロオリンピック銀メダリストのバルバラ・セイシャスなど、選手の持っているメダルの数では他を圧倒していたブラジル女子も、チームとしてはフィットするのに時間がかかり、決勝ではアメリカ女子の戦術変化に対応し切れませんでした。

カタールではシェリフたちの活躍もあって、ビーチバレーボールは5本の指に入る人気競技だそうです。その目の肥えた観客にも、4x4は新鮮な驚きと興奮を持って迎えられました。「見る側も、迫力あるプレーが増えて盛り上がるね」と、パターソンもこの競技のポテンシャルに言及します。2人制、インドアとは違う難しさがあり面白い、永続的に行ってほしいとの選手の声も聞きました。ANOC、FIVBも、この成功でおそらく続けていくことになるでしょう。

「コートを少し広げインドアと同じにして、ブロックタッチをカウントしないともっとエキサイティングになるんじゃないかな」とパターソンはさらなる改良を提案します。4×4は世界的には新しいスポーツとして産声を上げたばかり。その面白さも含め、日本もここに加わらない手はないと思いますが、いかがでしょう?


男子優勝のアメリカ

文/スポーツジャーナリスト 小崎仁久
写真提供/日本ビーチ文化振興協会、ANOC

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