【FOR BEGINNER’S COLUMN⑤】炎天下激しい運動するビーチバレーボール。トップ選手たちはどんな暑さ対策をしているの?

【FOR BEGINNER’S COLUMN⑤】
炎天下激しい運動するビーチバレーボール。
トップ選手たちはどんな暑さ対策をしているの?

2020年東京オリンピックは、7月24日から8月9日の17日間で行われます。これは気象庁の過去30年の気温を見ても、1年で最も暑い2週間であることは間違いなく、オリンピック史上でも希に見る過酷な条件での大会となるでしょう。

選手たちはこの酷暑とも戦わないといけません。日本チームも他の国に比べ東京特有の高温多湿に慣れているとはいえ、選手たちはすばらしいパフォーマンスを自国の舞台で見せるため、暑さに関する科学的な研究や様々な対策を欲しています。

オリンピック33競技のうち、ビーチバレーボールは暑さ対策が非常に重要となるスポーツの1つと言っていいでしょう。肌の露出が多いため日光を直接浴び、白い砂からの照り返しもあります。頻繁にタイムアウトがあるといえ、ジャンプやディグなど瞬発系の運動を炎天下の中、40〜50分は続けなくてはいけません。また熱い砂の上では歩くことさえままならないこともあります。

暑熱環境(外気温28℃以上)下では通常よりも、運動パフォーマンス(特に持久系運動)が大きく低下することが医学的にわかっています。環境温度40℃では20℃と比較すると、同じ運動でも約半分の時間しか続けられなかったという実験結果もあります。

では暑熱環境下のプレーはどうしたらいいのでしょうか。体温を上げないこと、脱水を防ぐこと、ミネラル分、ビタミンの補給をすることなど様々な対策が求められます。中でも注目すべきは「深部体温」と呼ばれる体内の核心部の温度と、運動パフォーマンスの関係です。


タイムアウト中に顔や体を冷やす

元国立スポーツ科学センター(JISS)研究員、現在は立教大学と株式会社ウェザーニューズでコンディショニング、暑熱対策についての研究を続ける、中村大輔さん(博士スポーツ医学)はこう説明します。

「通常であれば,外気温の影響を受けづらい深部体温(通常37℃前後)も、暑さの中で運動を行うことで過度に上昇してしまう可能性が高まります。深部体温の過度の上昇(40℃以上)が運動の制限因子として考えられているので,運動中にいかに深部体温の過度な上昇を防ぐかが重要となります。また、皮膚温の上昇や暑さの感覚も運動の制限因子となるので,それらに対する対策も必要です」。

運動を始めると深部体温の上昇を抑えるのは難しいので、運動開始前にあらかじめ下げておくこと(プレクーリング)、運動中は上がりづらくすることがポイントです。その方法の1つは「アイススラリー」。アイスラリーとは液体と固体粒子の混合物のことであり、アイスシャーベット状の飲料は、水よりも体を冷やす効果が高く、氷よりも効率よく体内に取り入れることができます。
このアイススラリーを運動前に体重1kgあたり7.5g(体重70kgの選手で525g)程度飲むことにより、体の内側から深部体温を下げる効果が得られることがわかっています。

ビーチバレーボール日本代表チームも昨年の2018年夏、中村さんとともにアイススラリーの実証実験を行いました。ビーチは競技として完全な持久系運動とは言えず、試合前に深部体温を十分に下げるだけの時間が取れないこともあり、理論通りの結果は得られなかったものの、選手たちは暑熱対策としてアイススラリーに好感触を得ていました。


手のひらや足裏を冷やすのも冷却効果がある

プレクーリングのもう1つの方法は外部冷却。アイスベストや額に氷をあてるなどの身体の外から冷却する方法ですが、手のひらや足の裏を冷やすことも体温の低下には効果的です。中村さんは「体の四肢末梢部は、体幹部と比べて容積あたりの表面積が大きいため熱が放散されやすいこと。

また、手のひらや足の裏には、動静脈吻合血管という特殊な血管(動脈と静脈が毛細血管を介さずつながっていて体温が上昇すると血流量が著しく増大する血管)があり、ここを冷やすことによる冷却効果が大きいです」と話します。これまで首や脇、そけい部など血管の太い部分を冷やすといいと言われてきましたが、末梢部を冷却することも効率的だと言えそうです。

東京オリンピック暑熱対策の「前哨戦」となった2018年夏のアジア競技大会(インドネシア・ジャカルタ/パレンバン)では、銀メダルに輝いた石井美樹/村上めぐみ組がベンチにアイスボックスを持ち込みました。タイムアウトのたび、氷水の入ったボックスに足を入れて冷却し、体温の上昇を抑えようとしていました。タイムアウトの1分程度では深部体温は下がりませんが、2人は「十分に足は冷えて効果は高かった」と話していました。中村さんもこう評価しています。「深部体温だけでなく表面体温もパフォーマンスに影響するという研究もあります。筋温(筋肉の温度)が下がることによるパフォーマンスの低下がなく、涼しさを体感できるのであれば、いい対策だと思います」


カナダチームが着用していたアイスベスト

外部冷却には他にも様々な方法があります。7月に東京オリンピックのテストイベントとして行われた「FIVBワールドツアー4-star東京大会」では、カナダチームとドイツチームがアイスベストを投入していました。カナダチームのアイスベストは内側にブロック状の氷がパッキングされており、選手は試合前からベストを着込み、試合中のタイムアウトにも着用しました。
しかし、この大会で銅メダルを取ったカナダのヘザー・バンスリーとブランディ・ウィルカーソンは「暑さが軽減されるのは間違いありませんが、着たり脱いだり面倒なところもあって、今回、効果はそれほど高くなかったかもしれません」と話していました。

運動後の疲労を軽減する冷水浴も、プレクーリングとして有効ですし、暑い環境でトレーニングを行う「暑熱順化」も多くの競技で行われています。ただどんな方法も実施のタイミングや時間など、パフォーマンスを上げるための最大の効果を得るには様々な要素が絡み合ってきます。体と冷やすことと、筋温を上げるウォーミングアップとのバランスや、競技、個人によっても効果の度合いは変わってきます。


最新の暑熱対策を持ち込んでいたカナダチーム

また実際、効果の高い方法でも、カナダのアイスベストのように面倒と感じてしまうと有効ではないのかもしれません。逆に効果が低くても、選手がいいと感じる対策は良策だと中村さんも指摘しています。

来年の夏は、日本やコンディショニング研究が進んでいる各国が、最新の暑熱対策を各競技に持ち込んでくることになるでしょう。最も過酷なオリンピックが、新しいコンディショニング方法論を生み出すかもしれません。

スポーツジャーナリスト/小崎仁久

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