【FOR BEGINNER’S COLUMN② 】 ビーチバレーボールの『ペア』はどうやって決めるの? <後編>

【FOR BEGINNER’S COLUMN② 】 ビーチバレーボールの『ペア』はどうやって決めるの? <後編>

前編ではレシーバーのペアに対する考え方について考察しましたが、今回はブロッカーの考え方についてです。ブロッカーはレシーバーよりもペアの選択肢が増えるということはすでに説明しました。ブロッカーはレシーブが上手い選手を選ぶこともできますし、同じく背が高くブロックをこなせる選手もチームメイトにすることができます。

これは「ツーブロック」と呼ばれるシステムで戦うことになり、2人ともブロックもすれば、レシーブもプレーすることになります。この様なペアですと相手に対して高さでアドバンテージを持つことになりますし、どちらにボールが入ったとしても高い攻撃力を保つことができます。ただし一般的にレシーブの専門家がいないので、守備力、スピードが低下すると言われます。


チームの方向性、目標によってペアを決める

いずれにせよブロッカーは、レシーバーとのペアでは自らの武器であるブロック専念することもでき、ブロッカーとのペアではオールラウンドさを目指すことになります。
それでは、ブロッカーと言われる選手は、どのような考えでパートナーを選択しているのでしょうか。

勝てる可能性を一緒に追い求める

石井美樹選手は、純粋なブロッカーではなく、レシーブもできるオールラウンダーですが、現在レシーバーである村上めぐみ選手と組むことで、国内トップのブロッカーの地位についています。石井・村上組は一度は解散しましたが、2017年の途中から再びチームメイトになりました。

石井選手は村上選手から「世界で勝つためには(石井)ミキちゃんしかいない」とオファーされたと言います。結果、今シーズン、ワールドツアーのスイス・グシュタード大会(5star)でベスト8、東京大会(3star)では3位、アジア競技大会(インドネシア・パレンバン)では準優勝と成績を収めており、石井選手としてもよい選択になっています。

「オファーされる側、選ぶことのできる側」(コラム前編を参照)と言っていい石井選手ですが、ペアについて「基本的にバレーボールが上手い人に惹かれます」と言います。レシーバーに挑戦したいという気持ちもあるようですが、やはり「勝てる可能性を一緒に追い求めていけるパートナーがいい。ペアを組んでもすぐに結果は出ません。最初は勝てなくても、勝てるようになって自信がつくまで、いかに我慢できるかが大切だと思っています」と話しています。

相手の心をコントロールすることはできない

北京、ロンドンと2度のオリンピック出場を果たし、2012年に引退した朝日健太郎さん(2012年引退→参議院議員)は199cmの身長もあり、純粋なブロッカーでした。日本のトップブロッカーを長く続け、選ぶことのできる側の選手でした。

朝日さん自身は「日本一になれる、世界で戦える選手でないと選ぶことはない。選ぶと言っても、アメリカやブラジルのように選手層が厚いわけではないので、選択肢が多いわけではありませんでした」と現役時代を振り返ります。

さらにペアに求めるものについては、「心技体で言えば、『技』と『体』だけです。なぜなら、相手の心はコントロールすることはできないからです。自分に足りないものを相手に頼るわけであり、それ以外の感情はありません。プロとして勝つためのビジネスパートナーと考えていました」と当時の心構えも話してくれました。


ポジションや立場、経験などペアの考え方は変わる

勝てない時でもずっと一緒にいなければならない

愛媛県で指導者として活動している楠原千秋さんも現役時代は、「選ぶことのできる側」にいた選手の1人と言っていいでしょう。楠原さんはアテネ、北京オリンピックに出場し、その後も一線は退くものの請われればプレーして、培ってきた経験をコートの上で表現してきました。

楠原さんはペアに求めるものとして「パス、トスなど基本的なことができる人。もちろん練習で伸びる部分もありますが、もともと持っている感覚的な面もあります。海外で戦っていくには、その『つなぎ』がしっかりしていないと勝てません」と話します。

長くペアを続けていくは能力、技術以外の部分も少なからず重要だと言います。「調子がよい時はいいのですが、勝てなくなり雰囲気が悪くなっても海外で2、3ヵ月ずっと一緒にいなければならなくなると、性格的な相性も気にはなりますね」

楠原さんは現役時代、同じ選手と長くペアを組んできました。オリンピック出場を目標に持ち4年という時間を意識していたと言いますが、ペア作りに対して「何年あればペアは完成できるというものではありません。年月を重ねれば重ねるほどチーム力が上がっていくので、どこかで満足するものでもありません。上を追い求めればマンネリは生まれませんし、長ければ長いほど阿吽の呼吸が出てきますね」と話しています。


世界で勝ためには『つなぎ』の技術が必要

多くの選手にペアについて聞いてきました。ペアに求める条件として「目標が同じこと」というのは全員が話していましたが、レシーバー、ブロッカーといったポジションや、オファーする側、される側といった立場、経験などで、その考え方は変わってきます。

トップの選手はオリンピックを目指し、4年のサイクルでペアを考えており、半年や1年でチームはできないことを考えると時間的制約も出てきます。さらに前編で登場した西村晃一選手のように海外の選手を呼んでエンターテイメント性を高めたり、楠原さんのように育成に主眼をおいてチームを組むこともあり、ペアが決まる要因は様々です。

シーズンも終盤になると、来シーズンのペア結成の駆け引きが水面下で始まるそうです。「あの選手と選手が組んだら強くなりそう」「あの2人のペアのプレーを見てみたい」など、皆さんもビーチバレーボールの「ストーブリーグ」を楽しんでみてはいかがでしょうか。

文/スポーツジャーナリスト・小崎仁久