変化するアジアの勢力図。日本の強化の課題を露呈したアジア競技大会。

変化するアジアの勢力図。
日本の強化の課題を露呈したアジア競技大会。

「第18回アジア競技大会2018ジャカルタ・パレンバン」(インドネシア) のビーチバレーボール競技が8月18 日(土)から8月28日(火)、パレンバンのジャカバリン・スポーツ・シティで開催された。女子は中国が優勝し、男子は28日に行われた決勝を制したカタールが初優勝に輝いた。

男子決勝戦は、インドネシア第1チームのAde Candra Rachmawan/ Mohammad Ashfiya組とワールドツアーランキングトップ(10位・8月27日時点のカタール)のカタールのAhmed Tijan Janko・Cherif Younousse Samba組の対戦となった。


男子決勝戦。地元インドネシアとカタールの対戦

ホームの大声援という味方をつけたインドネシアが、どこまで世界トップクラスのカタールに太刀打ちできるかが、見どころとなった決勝戦。インドネシアは、平均身長190㎝のチームだが豊富なジャンプ力を持ち、高いブロック力を軸とした粘り強いディフェンスが最大の武器、パワフルかつスピーディーなプレーを展開し勝ち上がってきた。
決勝戦序盤、インドネシアはオリンピアンである長身ブロッカー・Younousse Sambaのブロックを強打で交わし、格上のカタールに対し11-9と先行していた。

中盤にきても15-12とリードに成功し、逃げ切りたいインドネシア。しかし、地元の大声援を一瞬で黙らせるようなYounousse Sambaの強烈なスパイクを軸に少しずつカタールがゲームを支配していく。デュースにもつれこんだ接戦の第1セットは26-24とカタールが制した。

第2セットは序盤からカタールの独壇場だった。Younousse Sambaのブロックを意識してかインドネシアの攻撃はショットが多くなる。インドネシアの心理を読んでいるかのようにレシーバーのTijan Jankoがショットの行き先で待ち構える。ブレイクポイントを重ねていったインドネシアをカタールが引き離し、21-17とストレートで勝利。Younousse Sambaは勝利の瞬間、コート上をくるりと側転し、喜びを表現した。

男子の表彰台には、開催国として大役を果たしたインドネシア勢の堂々とした姿があった。

4年前の仁川大会では、男子はカザフスタンが優勝し、中国が銀、銅メダルを獲得。当時、インドネシアは4位に終わっていた。女子においても、仁川大会は中国とタイが2チームずつランクインしていたが、今大会は日本が12年ぶりの銀メダルを獲得し、インドネシアは初の銅メダルに輝いた。


5年前からアジアツアーを開催してきたパレンバンの会場、メダルマッチは超満員に

アジア競技大会史上、男女ともに初のメダルを獲得したインドネシアの躍進。今大会、金メダルを獲得すれば、選手には推定1000万円ほど多額な報酬金と住居が贈呈されるとも言われていた。しかし、振り返ってみれば、インドネシアの強化体制は、決して恵まれたものではなかった。

2013年からジャカルタやパレンバンにアジアツアーの誘致をスタートさせたものの、国際大会の出場はアジアツアーが中心。ようやく今年に入ってワールドツアーに参戦していたが、基本的にインドネシアチームは財政面の都合で、国内で強化を図ってきた。日本バレーボール協会ビーチバレーボール事業本部強化委員会の川合庶副強化委員長は、「外国人コーチなどの雇用もなくインドネシアが結果を残したことは、我々も見習わなければならない」と語る。


銀、銅メダルを獲得し会見するインドネシア男子チーム。中央が男子監督のDarkuncoro氏

インドネシアの男子チームは2000年代頃まで、アジアでベスト8が定位置だった。しかし、アジア競技大会の開催が決まると、選手層も厚みを増した。かつて代表選手として戦っていたKoko Prasetyo Darkuncoroが監督に就任し、190cm前後と決して上背を持っていない選手たちをタフなチームへと鍛え上げた。直近の大会では、FIVBワールドツアールツェン3star大会で4位まで上りつめた。

Darkuncoro氏は「アジア競技大会の開催は非常に重要だった。ビッグチームに勝つためにはハードな練習が必要で、私自身も他の国のコーチングを学び、自分の知識として活かせるように取り組んできた。選手たちがいい経験を積んできたことが結果に表れた」と振り返った。

東京オリンピックまで2年を迎え、2019年9月から始まるFIVBワールドツアーは、東京オリンピック出場にかかわるオリンピックランキング獲得ポイントを決める対象大会となり、1月からはコンチネンタルカップ(オリンピック大陸予選)が開催される。

今回のアジア競技大会は、これから始まる大勝負に向けて実力を計る『通信簿』の対象だった。その結果、女子の石井/村上組が12年ぶりの決勝進出を果たしたものの、二見梓/長谷川暁子組は5位タイ、男子は上場雄也/白鳥勝浩組、清水啓輔/長谷川徳海組は9位タイに終わり、振るわなかった。


銀メダルを獲得して帰国した村上/石井組。左端が現場責任者の川合副強化委員長

現地で戦況を見守った前出の川合氏は言う。
「女子は、各チームに強化費を分配してそれぞれのコーチの下、強化を図り活動していく方針は今後も続けていく。ただし、2チームが1つの代表として戦うコンチネンタルカップは、いろいろな可能性を試すためにチームの組み変えも考えている。それをいい刺激にしていきたい」。
一方の男子は、今回の結果にも表れているように「強化の環境、システムを見直さなければいけないと思う」と課題を口にした。

アジア競技大会の開催が正式に決まったのが、2014年9月。そこから4年間で、ここまで底上げを図ってきたインドネシアチーム。その一方で、オリンピックの開催が決まってから5年の月日が経ったものの、停滞状態から抜け出せない日本の強化体制。このコントラストを払拭する打開策はあるのか。2年後の東京オリンピックはもちろん日本ビーチバレーボールの未来に向けて、今後強化陣営がどのように軌道修正を図るのか、その動向に注目したい。

アジア競技大会結果詳細