2022年を振り返る① 牛尾強化委員長

2022年を振り返る① 牛尾強化委員長

今年は世界選手権、アジア選手権などの国際大会が開催され、日本からも多くの選手が出場した。また来年にはパリオリンピックの出場権を懸けた戦いも始まる。日本代表の強化などを担う牛尾正和強化委員長に、今年の振り返りと来年に向けての見通しを聞いた。【トップ写真:FIVB】

 

──まずは今年最大の国際大会として、女子の世界選手権がありました

牛尾 世界選手権では石井美樹/溝江明香組がプール戦を突破して、19年ぶりにトーナメント進出を果たしました。(2003年に同大会に出場した楠原千秋/徳野涼子組以来)また世界ランキングでも最高13位になるなどよい結果を残しています。世界選手権時点ではチームを結成して1年未満でしたが、所属チームのコーチと、ときには選手のみで海外を転戦しながら、少しずつチームとしての経験を積み重ねて結果を出しています。ただ、来年、パリオリンピック出場権を懸けたオリンピックランキングの争いが始まると、海外のチームもギアを上げてきます。その分、日本チームのランキングが下がってくるということが過去にもあったので、どのようにキープするのかが鍵になります。

 

──アジア選手権では石井/溝江組が4位、長谷川暁子/坂口由里香組が5位に入りました

牛尾 石井、溝江以外にも強化指定選手の長谷川暁子/坂口由里香組や柴麻美/西堀健実組、橋本涼加/村上礼華組らも国際大会に継続的に出場しました。今季はチームごとに強化を任せながら、結果を出しているチームを強化指定して、さらにサポートするという仕組みで、女子については各チームの頑張りで、一定の結果を出しています。一方男子はポイントが足りず想定よりもプロツアーに出場できませんでした。シーズン終盤のプロツアーで、ポイント上位の国が出場していないタイミングに出場することができたのですが、今後の取り組み方や体制を変更し、もっと海外の選手との試合経験を積む機会を増やさなければいけないと考えています。

 

アジア選手権に出場した長谷川暁子/坂口由里香組【写真:AVC】

 

──そういった取り組みの一環として、マイナビジャパンツアー第6戦松山大会の男子ではオーストラリアの選手を招致しました

牛尾 今回出場し優勝したZachery Schubert/Thomas Hodges(ともにオーストラリア)組は、11月に行われたプロツアーのエリート16トーキー大会(オーストラリア)でも準優勝しており、レベルの高いチームに来てもらうことができました。以前から海外の選手を呼びたいとは考えていましたが、新型コロナウイルスの影響で入国が難しい状況にあり、やっと実現できたというものでした。強化としては今後も招致の継続をお願いしたいと考えています。ただ、男子は国内ツアーのボールが変更となる影響で、招致のハードルが上がることも予想しています。しかし、海外選手の招致や海外合宿の実施など、国際大会に出場できなくても海外の高さを経験できる環境は強化のために準備していきたいです。

 

第6戦松山大会で優勝を飾ったSchubert/Hodges組

 

──パリオリンピック出場権獲得に向けて2023年はどのような動きになりますか?

牛尾 女子はオリンピックランキング上位17位以内に与えられる出場権と、コンチネンタルカップ(各大陸選手権※1)での出場権獲得を狙うことが現実的だと思います。男子に関しては、まずは来年行われるコンチネンタルカップ第1フェーズにフォーカスしなければなりません。以前に比べると勝つことが簡単ではなくなった第1フェーズの突破をまずは目指します。また、コンチネンタルカップのメンバーに関しては、男女ともペアリングの変更なども含めたチームジャパン体制で臨む形になると思います。ふだんチームごとに活動するなかで、コンチネンタルカップでチームジャパン体制となる難しさはありますが、第3フェーズに向けてベテランと若手の力を融合していく必要があります。

 

※1 第1〜3フェーズを勝ち抜いた優勝国がオリンピック出場権を獲得。女子は2021年に開催された同大会で、第3フェーズ(ファイナル)の決勝に初進出し準優勝だった

 

──2022年に杭州(中国)で開催予定だったアジア競技大会が、新型コロナウイルスの感染拡大につき2023年9月に延期されました

牛尾 アジア競技大会はコンチネンタルカップに出場するチームと対戦するという意味で大事になってきます。また日程が世界選手権(※2)と2日間重なっています。AVC(アジアバレーボール連盟)が日程変更などで対応する可能性が高いですが、女子は世界選手権にも出場する可能性が高いので、チームをどのように振り分けるのか、またピークをどのようにもっていくかなども考える必要があると思います。

 

※2 本来、世界選手権は隔年で行われる。2022年に開催されたローマ大会は当初2021年に開催予定だったが、新型コロナウイルスの影響により1年延期されたため、2022年と23年は連続開催となる

 

 

──今年はアンダーエイジカテゴリーの大会に選手を派遣することができました

牛尾 ここ数年、新型コロナウイルスの影響により、派遣ができていませんでしたが、今年はU19アジア選手権大会に3年ぶりに選手を派遣することができ、男子は黒澤孝太/竜神輝季組が過去最高位の5位入賞を果たしました。そのほかにもU19世界選手権、世界大学選手権などにも出場しました。しかし、海外との差を感じる部分も多く、例えば中国やオーストラリアなどは、アンダーエイジカテゴリーの試合でも、以前に比べると試合慣れした選手が増えていました。そういった現状を鑑みると、若い選手たちがもっと海外の選手と試合をする機会を増やして、物怖じせず、経験値を積んでもらうことが必要だと強く感じました。海外大会への派遣が再開できたことはとても大きな収穫です。

 

過去最高位の5位入賞を果たした黒澤/竜神組

 

──アンダーエイジカテゴリーでの課題はありますか?

牛尾 ビーチバレーボールをメインに活動する選手は少しずつ増えていますが、まだまだメインの活動がインドアという選手が多いという課題があります。ただ、過去の経験から、一度ビーチバレーボールを経験していると、選手がキャリアを選択するたびに、選択肢の中にビーチバレーボールを含めて考える選手が多いということが分かっています。これまでのU19やU21の大会に出場した選手から、ビーチバレーボールを続けるための相談を受けることもあります。こういったことからも早い段階でビーチバレーボールを少しでも経験してもらうことは重要です。また現在の強化スタッフで、次のU21の大会に向けてアンダーエイジカテゴリー日本代表の選考、合宿など年間通して活動を行います。ここではスキル習得だけでなく座学での講習会なども組み込んで、日本代表選手としてのあり方なども含めて学ぶ機会を作っています。日本代表の合宿や大会で学んだことで、スキルが上がった、いい選手になったと言われるような選手を送り出して、ビーチバレーボールを選択する選手を増やすことが強化につながります。

 

世界大学選手権日本代表の選手たち

 

──川合俊一会長が就任したことによる変化はありますか?

牛尾 川合会長が元々持っている知名度に加え、ビーチバレーボール連盟の会長をしていたこともあり、世間的に川合会長からビーチバレーボールをつなげてイメージしてもらいやすくなっているように感じます。川合俊一会長と川合庶事業本部長がいるので、ビーチバレーボールの体制が以前よりも厚くなったと感じています。

 

──最後に、ビーチバレーボールが将来どのようになっていって欲しいですか?

牛尾 サッカーのワールドカップカタール大会が開催されましたが、日本チームの活躍を一喜一憂しながら、サッカーに興味のない人までが日本全体として応援していました。これはスポーツが持つ本当にすごい力だと思います。日本のビーチバレーボールも、日本中を巻き込んで盛り上げられる、そんな競技を目指していきたいです。

 

牛尾正和強化委員長