世界選手権19年ぶりのトーナメント進出 発展途上のチームは変化し歩み続ける

世界選手権19年ぶりのトーナメント進出 発展途上のチームは変化し歩み続ける

FIVBビーチバレーボール世界選手権がローマ(イタリア)で6月10日(金)から行われ、女子日本代表として出場した石井美樹/溝江明香組がプール戦を突破し、トーナメント進出を果たした。2003年に同大会に出場した楠原千秋/徳野涼子組以来19年ぶりとなる成績を残した今大会を振り返っていく。

なかなか持っている力を出しきれず

 

プール戦の初戦はスイスのHeidrich/Vergé-Dépré, A.組と対戦。石井/溝江組は、ブロックポイントやサービスエースで先行を許し、第1セットを奪われた。第2セットも序盤からリードされ6点差となるが、ブロッカーを入れ替えて相手を惑わし、徐々にペースを握って16-16で同点に追いつく。しかし、その後サーブミスや相手ブロックで、再度突き放されて0-2で敗れた。

第2戦はラトビアのKravcenoka/Graudinaと対戦し、第1セット序盤からショットやブロックでポイントを奪いリード。サーブで崩し、ブロックとレシーブの連係が機能し、ボールを拾って切り返すシーンもあったが、逆にサーブで崩される場面も目立った。17-17からブロックポイントを奪われると、高さを意識したのか、スパイクミスを連続しセットを失うと、第2セットも相手の高さを生かしたプレーに押され、大きくポイントを離されてしまい、ストレートで敗れた。

 

本来の力を出すことができなかった(Photo:FIVB)

 

 

発展途上のチームは、「まだチームを結成して1年も経っていないが、その中でやってきたことをしっかりと出す」(石井)、「相手に対応して戦い、今までやってきたことをやる」(溝江)とそれぞれ話したように、現在のベストを出しきることを目標に据えて今大会に臨んだが、「今持っている力や技術が100%発揮できたかというと、そうではない」と望月コーチが語ったように、完全燃焼は果たせなかった。

プール戦、第3戦はモロッコのZeroual/Mahassine組と対戦。序盤からサーブで攻めて相手を崩し、試合を優位に進める。また相手のディフェンスを見てスパイクを打つコースを選択し、リードを広げたまま第1セットを奪った。続く第2セットもサーブが効果的に決まり、今大会初勝利をあげた。

サーブが走り、逆転勝利を収めたラッキールーザーラウンド

 

プール戦1勝2敗でラッキールーザーラウンドへと進み、メキシコのGutierrez/Quintero組と対戦。第1セット序盤はリードを許すも、粘り強くつないで5点差を追いつきジュースへ持ち込んだが、ミスが出てこのセットを落とした。あとがなくなった第2セットはサーブが走って5連続得点を重ね、奪い返す。勝負の第3セットは8-6から5連続得点を奪って逆転勝利を決め、トーナメント進出を果たした。

勝利した2試合で計13本のサービスエースを奪った石井は「プール戦ではサーブで攻めきれていない場面が多かったが、コーチと相談し、ミスしても打ちきると決めて攻めることができた」と語った。

 

世界と戦ううえでサーブは大きな武器となっていた(Photo:FIVB)

 

日本としては19年ぶりとなるトーナメントの1回戦は、今大会で優勝を飾ったブラジルのDuda/Ana Patrícia組と対戦。ここまで序盤に失点を重ねる場面が多かったが、この試合ではブロックとレシーブの連係がかみ合い、スタートは両チームサイドアウトの連続となる。しかし中盤以降は相手のサーブに崩されペースを失い、10点差をつけられて第1セットを落とした。第2セットは序盤からブラジルが試合巧者ぶりを発揮し、サーブで揺さぶられ、コースを的確に狙った攻撃の前に敗戦した。

石井が「私たちのチームは世界では大きくないので、基礎技術や細かいプレーの精度を100%、120%にしないと勝てない」と語るように、サーブレシーブやレシーブなどのつなぎのプレーの精度、ブロックとレシーブの連係による効果的なディフェンス、攻めるサーブを駆使しなければ勝利は遠い。また溝江は「世界と戦ううえでは、すべてのプレーが課題で、その中でもまずはサーブレシーブの上達が必要。相手がどんなに強いサーブを打ってきても、安定して返すことができれば攻撃の幅も広がる。徹底的にやり続けて、レベルを上げていきたい」と語った。溝江にとっては、サーブでこれほど狙われる経験は過去になく、多くの課題を感じた大会となった。ブロッカーに転向してまだ日の浅いこともあり、積むべき経験は多いに違いない。

 

サーブレシーブの安定が急務(Photo:FIVB)

世界で表彰台を目指すための変化

 

望月コーチは、そういった課題は感じつつも「まだまだ伸びしろは多い」と語る。

「ボディコントロールや、プレッシャーがかかる場面でどのように体を動かしていくのか、そういったところはまだ伸びるように思います。ジャンプの高さや打つボールの速さは世界と戦ううえで武器になっています。私たちが目指すのは世界の表彰台です。そのために今は基礎能力、個人の技術に重きを置いて強化を進めているところです」

 溝江は「今の状況は、これまで経験したことのないものです。ここからまた立ち上がっていくには、まったく新しい自分にならなければいけないと思います。いろんなことに挑戦することが必要で、今までと同じ取り組み方ではいけないし、変わっていくべきだと感じています。なので、立ち上がるというよりは、挑戦して新しいものを得て変化していくことが必要です」と語り、大きな変化を遂げる必要性を感じている。

国際大会の経験が豊富な石井も、まだ新しい技術を習得するべくチャレンジを続ける。「攻撃に関して、今は相手を見て打つことが重要だと考えて取り組んでいます。上にいけばいくほど、選手たちはそういったプレーをしながら状況に合わせた攻撃を選択していきます。私は小さいからこそ、それらをやっていく必要があると思います」

 

小さくても戦う術を見いだす(Photo:FIVB)

 

望月コーチは「スパイク時は踏み込む瞬間に、相手のコートを見てから跳ぶことに取り組んでいます。これまでもチャレンジしてきた技術ですが、世界選手権後、より必要性を感じて少しずつものにしているところです。風があってボールが流されるビーチバレーで目を切ることは難しいですが、一生懸命取り組んで、少しずつ形になってきています」と話した。

石井、溝江ともにこれまで多くの経験を積んできているが、世界の舞台で戦ううえで、それぞれ新しいことに取り組み、世界の表彰台に登るための研鑽を重ねている。コンビとして取り組むこともまだ多く、一朝一夕に結果を求める時期ではないかもしれない。しかし、世界選手権後に出場したビーチプロツアー2022 ELITE グシュタード大会では9位入賞という、成果があがっている。今2人がたどるは、パリオリンピックへと続く道の途中だが、一歩ずつ歩みを刻んでいることは間違いない。