AVCコンチネンタルカップを振り返る

AVCコンチネンタルカップを振り返る

2018年9月からスタートした東京2020五輪予選の最終章となる「AVCビーチバレーボール コンチネンタルカップ」の第2・第3フェーズがタイ・ナコンパトムで開催された。第2フェーズ(セミファイナル)は6月18、19日、優勝チームが勝ち進める第3フェーズ(ファイナル)は25〜27日に行われた。日本は開催国枠に加えて、アジア大陸枠を獲得すれば、合計で男女2チームずつが出場権利を得られる。その大事な最終決戦に男女日本代表チームが挑んだ。

 

■厳格な体制が敷かれたバブル内での試合

 

今大会で男子チームを率いたのは、牛尾正和監督。「代表決定戦の成績を基準に上から打診し、出場の意思があるチーム」を基準にチームが選出された。その結果、髙橋巧(ANAあきんど)/長谷川徳海(愛媛県競技力向上対策本部)組、庄司憲右(愛媛県競技力向上対策本部/湘南ベルマーレ)/倉坂正人(三菱オートリース)組、リザーブに土屋宝士(恵比寿丸)/池田隼平(カブト)組がエントリーされた。

女子は鈴木千代(クロス・ヘッド)/坂口由里香(大樹グループ)組、長谷川暁子(NTTコムウェア)/二見梓(東レエンジニアリング)組、橋本涼加(トヨタ自動車)/村上礼華(ダイキアクシス)組が選出された。チームを率いるのは川合庶監督(JVAビーチバレーボール強化委員長)。「アジアの高さに対抗できる選手やワールドツアーで実績のあるチームを選考基準にした。個の能力を重視したメンバーを選び、新しい布陣で挑戦しようと決めていた。チームジャパンとして優勝を目指すことはもちろん、若い選手にはこの経験を未来に活かしてほしい」と期待を込めた。

リザーブを含めた男女各3チームで旅立った日本代表を待っていたのは、厳格なバブル方式の運営だった。宿泊ホテルの前にコートが作られ、各チームのスタッフ、選手たちは1日1時間30分の練習以外は部屋から出られない。食事も1日3食、部屋まで配給され、決められた時間以外で外に出れば、罰金や試合出場不可というペナルティーが科せられる。他国の練習は見ることができず、事前のスカウティングもできない状態だった。また、スタッフが試合を観戦する場合の人数も制限されたため、帯同スタッフ全員でコートそばから観戦することはできないというもどかしい状況。当然ながら、マスク着用は必要不可欠。会場内各所には監視カメラが設置されているという厳重な体制が敷かれていた。

 

■初めてファイナル進出を逃した男子チーム

 

これまで経験したことがない負荷がかかるなか、幸先のいいスタートを見せたのは男子チーム。6人中4人が2mを越えているカザフスタンを相手に意地を見せた。チーム1髙橋/長谷川組がYAKOVLEV/BOGATU組に2-1(21-15,23-25,15-8)、チーム2の庄司/倉坂組がSIDORENKO/GURIN組に2-1(19-21,21-19,18-16)と2勝し決勝進出を決めた。

 

過酷な環境下で戦った髙橋巧/長谷川徳海組 ⒸAVC

 

カザフスタン相手に接戦を制した庄司憲右/倉坂正人組 ⒸAVC

 

日本は2週間前に開催国枠を争う東京2020日本代表チーム決定戦を終えたばかり。試合の中で劣勢の場面も見られたが、2チームともに立て直しに成功。「日本は代表チーム決定戦で緊迫した試合を経験し、チームもできあがった状態でこの大会に臨めたのは大きかった。厳しい試合をよく勝ち切ったと思う」と牛尾監督は振り返った。

 

男子日本代表チーム

しかし、男子チームの勢いはここまでだった。決勝は高さとスピードの両方を備えているオーストラリア。長い助走からのハイセット攻撃を主とし、サーブレシーブが崩れてもネットから離れた位置から強烈なツー攻撃を仕掛けてくるチームだ。決して単調ではないオーストラリアの攻撃に対し、「相手の高さは想定できていたが、対応することができなかった」と牛尾監督が述べるように、日本は序盤から後手にまわり巻き返すことができなかった。髙橋/長谷川組はMCHUGH/SCHUMANN組に0-2(19-21,11-21)、庄司/倉坂組もGUEHRER/SCHUBERT組に0-2(16-21,18-21)と2敗。この結果、第2フェーズ敗退となった。

2010年から始まった大陸予選以降、日本男子は初めてファイナルへ進出できなかった。敗因について牛尾監督は「日本国内ではあれほどの高さがあるチームが不在。男子はレベルの高いワールドツアーへ参戦できなかったことが大きかったと思う」と語った。

その翌週行われた男子ファイナルは7試合中3試合(棄権などはない戦況)がゴールデンマッチに持ち込まれるほどの混戦の末オマーン、イラン、インドネシアに勝利したオーストラリアが優勝。オリンピックランキングでは出場枠を獲得できなかったが、アジアチャンピオンとして東京2020に挑むことになる。

 

■女子チームはゴールデンセットで中国に敗戦

 

女子は第2フェーズにおいて、フィリピン、ニュージーランド、日本の3チームのみの出場となったことで、上位2チームのファイナル進出が決まった。第1シードの日本はすでに決勝進出が決まり、ニュージーランドとの決勝は1位通過をかけた戦いとなった。

そこではチーム1の長谷川/二見組がKIRWAN/MACDONALD組に2-0(21-15,21-14)で勝利したが、チーム2の鈴木千代(クロス・ヘッド)/坂口由里香(大樹グループ)組がZEIMANN/POLLEY組に0-2(20-22,19-21)で敗戦し1勝1敗。初戦からゴールデンマッチを経験することになった。「ファイナルでは彼女たちの力が必要だと思った」という願いを込めて川合監督は一度負けた鈴木/坂口組をゴールデンマッチに選出した。本来の粘りのあるバレーを展開した鈴木/坂口組は、ZEIMANN/POLLEY組に2-0(21-18,24-22)でリベンジに成功。日本はニュージーランドを下し、1位通過でファイナルへ乗り込んだ。

 

タイ戦でも粘り強く戦った長谷川暁子/二見梓組 ⒸAVC

ファイナル出場チームはオーストラリア、中国、カザフスタン、バヌアツ、タイ、インドネシア、ニュージーランド、日本の8チーム。日本の1回戦の相手はバヌアツ、準決勝ではタイと対戦した。ストレートで勝利したとはいえ、決して楽な展開ではなかったこの2試合。「苦しみながらも修正を図り、選手たちは試合ごとに成長していると感じた」と川合監督が話すように、日本は堂々の決勝進出を果たした。女子日本代表チームのコンチネンタルカップ決勝進出は、大会創設以来初めてとなった。

決勝の相手は、190cm越えの高さを誇る中国だった。チーム2のWEN/WANG組は負傷し初日から欠場していたため、チーム1のXUE/WANG組がゴールデンマッチを含めて4試合すべてに勝利して勝ち上がってきていた。

まさにXUE/WANG組の孤軍奮闘。3日間の連戦の末、5試合目で日本との決勝を迎えることになるため、日本にとってはまたとないチャンスだった。しかし、コートには疲れを微塵も感じさせないXUE/WANG組のタフな姿があった。長谷川/二見組を第1セット15点、第2セットを16点と抑えてストレート勝利をあげる。鈴木/坂口組は、この日も第2代表のWEN/WANG組が棄権したため、不戦勝。1勝1敗となった決勝は、ゴールデンマッチに突入した。

 

プレッシャーのかかる試合での経験を積んだ鈴木千代/坂口由里香組 ⒸAVC

この試合が今大会6試合目となるXUE/WANG組。鈴木/坂口組は身長差約20cmの相手にリードされても、ひるむことなく持ち前の守備力と正確なボールコントロールで応戦し、序盤は互角の攻防戦に持ち込む。その粘り強い鈴木/坂口組を警戒したのか、中国は堅実なディフェンスを展開。終盤にリズムを引き寄せ、第1セットは中国が21-17で先取した。第2セット、なんとか相手の体勢を崩したい鈴木/坂口組だったが、逆に中国のスピードサーブで崩され、ミスが続く。中盤で離された点差を埋めることができず、第2セットも中国が21-15で取り、ゲームセット。中国はオリンピックランキング枠に続いて、アジア大陸枠を獲得。東京2020へ2チームの出場が決まった。

最大のチャンスを生かせなかった日本。鈴木は試合後、悔しい気持ちを口にしていたが、選手全員、表情は晴れやかだった。川合監督は言う。

「選手たちは過酷な環境で持てる力を存分に発揮してくれた。残念ながら中国チーム1にはそれ以上の力の差を見せつけられる形となった。中国の若手・Wang XinXin選手の成長は著しく、以前と比べミスが減り、サーブやレシーブ等の技術も格段に上がり精度が高まっていた。アンダーエイジカテゴリーの成長は、今後の日本チームにとって大きな課題となった」。

日本のアジア大陸枠獲得への挑戦は終わりを告げた。男子の第2フェーズ敗退や若手選手の強化において課題を突きつけられた日本。東京2020後の、その先にあるパリオリンピックに向けてすでに戦いは始まっている。